能楽という仮想の鏡身体OSの参照枠を書き換える

Virtual Field of Noh
第三章
能楽という仮想の鏡
身体OSの参照枠を書き換える
一本歯下駄GETTAと能楽の身体技法「すり足」「カマエ」が共有する「地的」身体性。西洋的OSから日本的OSへの転換を実現する実践的方法論

現代人を無意識のうちに縛る「西洋的OS」と、我々が忘却した「日本的OS」という、二つの身体観が存在します。デカルト以来の心身二元論に根差す前者が、身体を分析・制御すべき客体として捉えるのに対し、後者は「身心一如」の思想のもと、身体を経験の主体そのものである「身(mi)」として捉えます。本章では、能楽を「仮想の鏡」として、自らの身体OSを可視化し、一本歯下駄GETTAトレーニングと結びつけながら、身体知の再獲得への道筋を探ります。

一本歯下駄GETTAが呼び覚ます「地的」身体性 ― 能楽の身体知との邂逅

二つの身体OS ― 西洋的 vs 日本的
WESTERN OS
西洋的身体観
  • 心身二元論(デカルト)
  • 身体は分析・制御すべき客体
  • Korper(物質としての身体)
  • 効率性と直線的前進を重視
  • 重力に「抗う」志向
  • 歩行は「制御された落下」
JAPANESE OS
日本的身体観
  • 身心一如(心身不二)
  • 身体は経験の主体そのもの
  • 身(mi)としての身体
  • 安定と調和を重視
  • 重力と「調和する」志向
  • 歩行は「大地との対話」

第一節 なぜ能楽なのか ― 「地的」身体性の結晶

数ある日本の伝統文化の中で、なぜ能楽がこれほど強力な「仮想的界」として機能するのでしょうか。それは、能楽の身体技法が、西洋的OSの根幹をなす価値観―軽やかさ、効率性、直線的な前進―とは対極にある、重力と調和する「地的」な身体性の、比類なき結晶であるからです。

動きの美学:「天的」と「地的」の弁証法
天的(Light / Ascending)
代表:クラシック・バレエ
重力に抗い、天へと向かう上昇志向。軽やかさ、跳躍、浮遊感を本質とする動きの美学。
特徴
重心を胸に置き、垂直方向への伸長を志向。つま先立ち、ジャンプ、回転を多用。
地的(Heavy / Grounding)
代表:能楽、一本歯下駄GETTA
重力を味方につけ、大地と一体化する下降志向。安定、接地、存在感を本質とする動きの美学。
特徴
重心を腰より下に置き、水平方向への安定を志向。すり足、沈み込み、静止を多用。

1.1 すり足とカマエ ― 能の身体技法

能楽の二大身体技法
すり足
suri-ashi
腰を落とし重心を安定させ、足裏全体で大地を捉えながら、上半身を一切揺らすことなく水平に移動する技術。あたかも上半身が動く歩道に乗っているかのような滑らかさを実現。目的は「前進」ではなく「安定」。
一本歯下駄GETTAとの共通点
足裏全体での接地感覚、上半身の安定維持
カマエ
kamae
膝を軽く曲げ、腰を落とした基本姿勢。身体の重心を大地へと沈み込ませ、どっしりとした安定感を生み出す。この安定した下半身の上で、上半身は初めて自由になる。
一本歯下駄GETTAとの共通点
低重心姿勢、膝の柔軟な使い方、体幹の安定

西洋の芸能が重心を胸のあたりに置くことで天に向かう傾向があるのに対し、日本の芸能は重心を腰より下に置くことで地に向かう。能楽の身体技法は、まさにこの「地的」身体哲学の精髄であり、一本歯下駄GETTAトレーニングはこの古来の身体知を現代に蘇らせる実践的方法である。

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第二節 仮想の鏡が映し出すもの ― アフォーダンスの転換

能楽という「仮想的界」に自らの身を置くとき、一体何が起こるのでしょうか。それは、日常では決して意識にのぼることのなかった、自らの身体の「癖」や「思い込み」の発見です。これは一本歯下駄GETTAを初めて履いた時の体験と酷似しています。

能楽師の動きを模して、すり足で歩こうと試みたとしよう。多くの現代人は、即座に困難に直面するだろう。無意識のうちに爪先で床を蹴ってしまい、踵が浮き、その結果、頭が上下に揺れてしまう。上半身を水平に保とうとすればするほど、身体の各部がいかに連動しておらず、いかに西洋的な「歩行OS」に支配されているかを、身体そのものが「理解」し始める。

アフォーダンスの転換 ― 環境知覚の変容
西洋的OS下での床
効率的に歩行し
前進すること
能楽/GETTAの仮想的界
上半身を揺らさず
安定して水平移動
新たな知覚
繊細なパートナー
としての大地

2.1 ギブソンのアフォーダンス理論から見たGETTA

ジェームズ・ギブソンの言う「アフォーダンス」とは、環境が動物に与える行為の可能性です。西洋的OSの下で生きる我々にとって、平らな床は「効率的に歩行し、前進すること」をアフォードします。しかし、一本歯下駄GETTAを履いた瞬間、床のアフォーダンスは劇的に変化します。床はもはや単なる移動のための平面ではなく、「上半身を揺らさずに、安定して水平移動すること」を要求する、極めて繊細なパートナーとなるのです。

このプロセスは、まさにマイネル教授が目指した「感性的・現象学的まなざし」を、実践的に育成する過程に他なりません。それは、動きを外部から客観的に分析するのではなく、動きの内側から、その質的な変化を主観的に「感じる」能力の涵養です。

第三節 感性の言語によるOSの再記述 ― ラバン動作分析理論

身体の「ズレ」の感覚を、より精密に捉え、意識的な変容へと繋げるために、ルドルフ・ラバンの動作分析理論(LMA)を分析の道具として用います。LMA、特にその「エフォート」(Effort)理論は、動きの質を記述するための普遍的な言語を提供します。

ラバン動作分析理論(LMA):エフォートの3要素
能楽と一本歯下駄GETTAに共通する動きの質
Weight(重さ)
Light

Strong

Strong(強い)

重力に身を委ね、大地との繋がりを維持。バレエの軽やかさとは対極。

Time(時間)
Quick

Sustained

Sustained(持続的)

性急さを排し、ゆったりとした時間の流れ。瞬間的な反応とは異なる。

Flow(流れ)
Free

Bound

Bound(抑制的)

エネルギーの漏れを防ぎ、制御された動き。自由奔放な流れとは異なる。

西洋的OSの下での日常的な歩行は、多くの場合、より「軽く」「瞬間的」で「自由」なエフォートの組み合わせによって特徴づけられます。能楽という「仮想的界」、そして一本歯下駄GETTAは、我々に対して、意識的に「重く、持続的で、抑制された」エフォートの組み合わせへと、身体感覚をチューニングし直すことを要求するのです。

このLMAという「感性の言語」を用いることで、我々は自らの身体経験をより客観的に、しかし質的に捉え、変容させていくための具体的な手がかりを得ることができる。それは、身体OSの書き換えを、マイネルの感性学の視座から、より深く、より体系的に推進するための、強力な羅針盤となる。

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第四節 一本歯下駄GETTAと能楽の統合

ここで我々は、能楽の身体技法と一本歯下駄GETTAトレーニングの驚くべき共通性を確認することができます。両者は異なる歴史と文脈を持ちながらも、同じ「地的」身体性の原理を体現しているのです。

一本歯下駄GETTAが実現する身体OS書き換え
1
仮想的界の体現
一本歯の不安定さが、能楽の「仮想的界」と同様に、日常とは異なるルールと美学の世界を創出。自らの身体OSを可視化する「鏡」となる。
2
すり足原理の再現
GETTAでの歩行は、足裏全体での接地と上半身の安定維持を強制。能楽のすり足と同じ「水平移動」の原理を自然に体得。
3
カマエの自動形成
バランス維持のため自然に膝が曲がり、腰が落ちる。能楽のカマエと同じ低重心姿勢が無意識のうちに形成される。
4
エフォートの再調整
「強い・持続的・抑制的」なエフォートへの自動的なチューニング。西洋的OSから日本的OSへの転換を身体レベルで実現。

身体OS書き換えの5段階プロセス
1
仮想的界への参入
一本歯下駄GETTAを履くことで、日常とは異なるルールの世界に足を踏み入れる。能楽の舞台に上がるのと同じ「結界」を超える体験。
2
既存OSの可視化
バランスを取ろうとする中で、自らの身体の「癖」や「思い込み」が露呈。西洋的OSの重力に引かれていたことを痛切に「体感」。
3
アフォーダンスの転換
床のアフォーダンスが「効率的前進」から「安定した水平移動」へと変化。環境との関係性を新たな様式で知覚し直す。
4
エフォートの再調整
「重く・持続的で・抑制された」動きの質へと身体感覚をチューニング。LMAの言語で自己の動きを客観視。
5
新OSの定着
反復練習により「地的」身体性が無意識化。日本的身体OSが新たな「デフォルト」として定着し、日常動作も変容。

能楽の「型」は、それ自体が完成された芸術であると同時に、我々現代人にとっては、失われた身体知を取り戻すための「仮想の鏡」となる。一本歯下駄GETTAは、この「型」の知恵を、より日常的で実践的な形で現代人に提供する、希有なトレーニングツールなのである。

結論:鏡に映る自らの姿と向き合う

能楽という「仮想の鏡」に自らの身体を映すとき、我々は初めて、自らの動きがいかに西洋的OSの重力に引かれていたかを、痛切に「体感」します。その鏡に映る自らの姿と向き合うこと。それこそが、身体OS書き換えの、長く、しかし実り多き旅の第一歩なのです。

一本歯下駄GETTAは、600年以上の歴史を持つ能楽の身体知を、現代人が日常的に実践できる形で再構成したものと言えるでしょう。能楽師のように長年の修行を積まなくとも、GETTAを履いて歩くという単純な行為の中に、「すり足」「カマエ」の原理が凝縮されています。それは、失われた日本的身体OSを取り戻すための、最も効率的で実践的な方法論の一つなのです。

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引用文献
1. マイネル遺稿 動きの感性学 – 紀伊國屋書店
2. あぜくらの夕べ「能の身体・狂言の身体」 – 日本芸術文化振興会
3. 「歩く」つながりで、古典芸能の「すり足」についても考えます – 劇場通いの芝居のはなし
4. 能楽をさらに詳しく知る – 金沢能楽会
5. ルドルフ・フォン・ラバン – Wikipedia
6. 5分で読めるダンス史シリーズ:ルドルフ・フォン・ラバン – note
7. 日本武道に見られる思想の研究(その3)−日本武道における「型」の一考察−
8. 「型」とは何か―『「型」の再考』で体感する「型」の叡智 – テンミニッツTV
一本歯下駄GETTA 宮崎要輔
一本歯下駄GETTA 宮崎要輔一本歯下駄GETTA 宮崎要輔
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はじめまして、宮崎要輔といいます。

一本歯下駄を求めてこのページに辿り着き、この文章を読まれている方は、お子さん、子供たちに対して本当に愛のあるお父さん、お母さん、指導者の方や向上心が本当に高く、感性、感覚がとても高い選手だと思います。

だからこそ、そうした子どもたちを支える周りの大人の方々の愛、向上心の高い選手の気持ちにこたえられるように、このサイトから一本歯下駄の使い方や理論、トレーニング、活動について最大限にサポートしていきたいと思います。

まず初めに私と一本歯下駄との出会い、一本歯下駄の理論について文章で紹介したいと思います。

私が、一本歯下駄との出会ったのは、約14年前でした。当時は陸上競技で100m、400m、走り幅跳びをしていたのですが、一本歯下駄を履いたのちに走った時「競技者として自分に足りなかったのはこの感覚だった」と強く衝撃を受けたのをおぼえています。

私は小学生の頃、多くの人がそうであったように歴代で1番の選手になりたいという夢を持ってスポーツに対して無我夢中の日々を過ごしていました。

どうやったらうまくなれるか、速く走れるか、そのコツは何なのか、誰よりも努力して勉強したい。そんな夢中の中にいました。おかげで小学生の頃は野球にサッカー、陸上、バスケットボールと幾つものスポーツを自分の中でありのままに思う存分に楽しむことができました。競技結果も周りからの評価も自分が楽しめば楽しむだけついてきました。

ただ、中学生になると多くの環境の変化の中でそんな自分は遠くの存在となります。一時はスポーツそのものが嫌いな時期もありました。高校生になると中学時代の空白を埋めようと誰よりも努力しましたが小学生の頃の「無我夢中の中でコツを掴む」感覚は取り戻せずにいました。

当時は、自分より身体が小さく、筋力がない選手でも自分より速く走れる選手がいることにわけがわかりませんでした。その差はセンスや才能という言葉でしか思いつきませんでした。負けじと、走り込みは勿論、ラダーやウエイトトレーニング、加圧トレーニングに、初動負荷トレーニング、ケトルベルでのトレーニングと自分にできる努力を積み重ねても一向に届きません。誰よりも速く走れて、誰よりもスポーツが得意だった小学生のあの頃の自分はどこにいったのだろうか。高校時代の私は、中学時代の空白期間になくしてしまったものは、あまりにも大きかったと思っていました。

そうした心境もある中で一本歯下駄と出会い冒頭で書いたように「競技者として自分に足りなかったのはこの感覚だった」と強く衝撃を受けたのです。

この感覚がなかったのだから、どんなに努力してもあの時の「無我夢中の中でコツを掴む」感覚にもならなければ、全国トップの選手にもなれなかったのは当然だと納得しました。

中学生の頃の自分のように環境の変化で苦しんでいる選手。高校生の頃の自分のようにどんなに努力しても伸び悩んでしまっている選手に、この一本歯下駄を届けたい。

それが今日まで私が一本歯下駄と16年以上関わり続け、唯一のスポーツ型一本歯下駄を取り扱っている理由です。

「本人の才能や努力」では突破できない「出会い」や「環境」のカベを突破できる可能性を一本歯下駄は、もっていると確信しています。

「出会い」や「環境」はそれなりの年齢になれば、自分で選ぶことができますが、子どもにとっては、なかなか理想な「出会い」や「環境」を自分で構築することは難しいです。

そしてそれもまた地域格差があります。

本人の気持ちや努力、才能というものがいくら揃おうとしも、それを理解してくれる大人や指導者との出会いがなければ何処かで潰されてしまう現実があります。一本歯下駄は、この部分を社会的に変えられると思うからこそ、ずっと続けてきました。

一本歯下駄の理論やトレーニングは勿論ですが、一本歯下駄を通してできたつながりを子どもたち、選手たちに地域の垣根をこえて届けることで一人一人の人生が今より楽しく、その人らしくあるものにしていけたらと思います。

そのために、このサイトを運営していますし、そうした機会を作るための仕組みやイベントを続けています。

今は、一本歯下駄認定インストラクター、一本歯下駄認定トレーナー、一本歯下駄愛好会といった形で、共にそうした環境をつくっていける方々と共有しながら、新たな出会いを楽しみにしています。

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